理学療法士の多様化する働き方を実現するキャリアマガジン「コメット」

2023.07.20 教育

こどもリハビリかめきち・日本一リアルタイムに相談できる小児PT

かめきち(小児リハ専門PT)

社会人4年目が過ぎたとき、臨床現場で働く中で感じていた葛藤や違和感を抱えて海外へと飛び立った。自分自身を客観視しながら世界中を旅する中で、視野を広げながらも「不平等・不条理・不合理」を感じることに・・・。平等に与えられている時間の中で、自分が果たすべきことは何か?と問い続けた「かめきち」さんが、小児リハ専門のPTとなった経緯と真意について語る。
かめきち

保有資格:理学療法士

「あなた、おかしいよ?」

これは、以前勤務していた病院の上司から言われた言葉です。言葉の真意としては、既存のシステムに乗ることができなかったことにより発せられたものでした。日本は、世界屈指の高度な医療技術およびシステムによって国民の健康的な生活が守られています。

意外な事実かもしれませんが、医療の現場においては、「こんなこと本当に必要あるの?」「このことは、患者さんが望んでいることなの?」と思えるようなことが蔓延っていたりもします。無意味というか、合理性を欠いているというか・・・。

無論、基本的には意義ある医療行為によって成り立っていますが、そればかりでもない実状を垣間見たことにより疑念が生じてしまったことがあります。

ある日、「これは、何のための医療行為なのだろう?」と思ったので、その疑問を上司にぶつけてみました。それに対しての答えが、「あなた、おかしいよ!!」だったのです。こちらが正しいと思うことが、相手にとっても正しいとは限りません。

逆も然りであり、相手が当然だと思っていることが、こちらにとっては間違いであることもあります。私は、疑問に思ったことを口にすることがおかしいのなら、私がおかしいと言われても仕方ないと思いました。

しかし、そうしているうちに、疑問が更なる疑問を呼び、当時の自分では答えを見出すことができなくなってしまいました。私は、疑問を分からないままにしておくことができないタイプなので、「自分がおかしいのか?それともおかしいことをおかしいと言えない社会がおかしいのか?」を確かめながら自分自身を客観視すべく、世界へと旅に出てみようと思い立ちました。

世界を旅する中で気付かされたことは!?

病院を退職後、4カ月のあいだで24カ国を巡りました。アジアからアフリカ、アメリカから南米まで渡り、いろんな国々へ行きました。各国にそれぞれの魅力がありましたし、海外に行くことで日本の素晴らしさも再認することとなりました。
中でも、カンボジアのスナハイ村にある学校を訪問した時には、「教育の重要性」を改めて感じさせられました。その学校は、日本の支援によって成り立っていたのですね。

一見、文化的成長を遂げつつあるようにも見えましたが実状は異なりました。ただ支援を受けるだけで、自分たちの力で解決する術を知らなかったのです。

なので、解決能力が備わっておらず何か問題が起きたとしても支援に頼るだけでした。支援によって成り立っているだけの脆弱な体制では、支援がなくなったらどうなってしまうのでしょう?きっと上手くいかなくなってしまいますよね。
このことは、私が考えていた「リハビリテーションをする上で重要視する点」と重なりました。セラピストがリハビリを指導するときには、患者さん本人が可能な限り自立することを意識するはずです。

そのために、できる能力を最大限引き上げる必要がありますが、できないことの見極めも大切になります。更に、できない部分を介助に依存していては、いつまでたっても自立することができません。できないことに捉われ過ぎずに、患者さんと支援者が共同でハンディキャップを埋めていくことが大切です。

生まれてくる時代や場所が異なるだけで、違ってくるものがある!?

また、現地で生活している人たちを見て「不平等さ」も感じました。カンボジアでは1975年まで過激な内戦が続いていたので、人々が生活している地域に地雷原が多く存在します。

その被害に遭って、下肢を失ってしまった人もいらっしゃいました。そんなことは日本では考えられないことですよね。生まれる国が異なるだけで、平和に暮らせるかどうかも変わってしまうなんて「不平等」だと感じました。
自分自身を客観視する旅のはずが、多くの学びと複雑な感情による混沌とした状態で日本に帰国することになりました。帰国直後は具体的な方向性が定まらず、世界を見てくる中で感じた「自分の使命のために生きていきたい」という思いを内側に秘めつつも何から始めたら良いか分からずに過ごしていました。

そんな中、新型コロナウイルスのパンデミックにより、世界中が自粛生活を強いられる時期に突入していきました。私自身も自由度の利かない生活に嫌気が差し、悶々とした日々を過ごしていました。

新型コロナの影響により、さまざまなことが変化していかざるをえなくなりました。リハビリも例外ではなく、皮肉なことにコロナによりその在り方が問い直される形になったかと思います。

それまでのリハビリは、患者さんと対面して行うのが基本でしたが、それができない状況になってしまったのでオンラインサービスを開始しました。すると、リハビリを受けられなくてお困りの方々が予想以上にいらっしゃことに気付いたのです。

「不平等さ」へ憤りを感じ、小児リハビリの道へ

さまざまなニーズや相談内容を聞いているうちに、「子ども」のリハビリへの重要性を強く感じるようになりました。人って生まれたときは、「不平等」だと思うんです。それでも唯一平等に与えられているものもあります。

それは、「時間」と「誰しもいつかは死を迎える」ということです。

私にもいつの日か死を迎えるときが必ずやってきます。「死」へと向かう中で、限りある時間をどう生きていくか・・・。

そう問いかけたときに、不平等な状況・環境から不条理かつ不合理な社会を生き抜いていく子ども達へ向けたリハビリをしたいと切望するようになりました。

健常児として生まれてくる子もいれば、病気や障がいを抱えている子もいます。整った教育環境で育つ子もいれば貧困家庭にて養育される子もいるでしょう。

だからと言って、健康状態や環境だけで幸せか否かが決定付けられる訳ではありません。不平等であっても不幸ではないのです。

障がいをもって生まれた子あるいは負うこととなった子に対して、理学療法士である私ができることは何か。もしハンディキャップによって不平等さを感じているなら、不平等と不幸が必ずしもイコールで結ばれる訳ではないことを一緒に立証したいです。

その子自身が「幸せとはなにか」について考えるお手伝いもしたいと願うようになりました。そして、起業を決意し、SNS上でプラットフォームをつくりながら1年かけて周到に準備をしました。

その期間中に、障がい児をもつ親御さんからの御相談を受けながら「私がどんなことに取り組んでいくのか」「私が提供していくリハビリ」について発信していき、支えてくれるフォロワーさんやSNS上の視聴者さんを集めていきました。

そうして試行錯誤した結果、日本一リアルタイムに相談できる小児PT「かめきち」として活動を開始しました。

起業への不安と不平等への反抗心が生んだ強い信念の狭間で

起業するとなると、「お客さんが集まらなかったら、どうしよう」「医師の後ろ盾がないことにより自分に圧し掛かる重責」など不安でいっぱいになりましたね。

起業にあたっては、リハビリに必要な機材を揃えて場所を借りただけなので、借入などはせずに自己資金のみで可能でした。

いざ起業してみると、私が発信した情報に関心を寄せてくださった保護者の方々が続々とご相談に来られました。

その中には、医師による診断名がついている方もいれば、診断がつかずにどこに相談して良いかすら分からずにいる方まで色んな方々がいらっしゃいました。

これはあくまでも私個人の経験に基づいた見解なのですが、小児がリハビリを受けるのって大変なことなんです。なぜなら、診断名や予後に対して明確な治療方針を示してもらえないことがあるからです。

そのため親御さんはどのような療育・リハビリをしたら良いのか分からないままお子さんと過ごしていることが多々あります。

結果として、具体的な方向性を見出せないまま彷徨うことになっているという報告も頻繁に耳にします。行く末が分からないまま彷徨うというのは、大変な不安を抱えることになるでしょう。よって、悩みをクリアにして適確な方向性へと導くお手伝いが必要となります。

クリアにしていくことで、「いつか急激に障がいが良くなり、健常児と同じような生活を送れるようになる」といった幻想のような希望を砕くこともあります。

けれど、それは絶望ではなく、誤った解釈や無知による誤解を解くことになりますので、絶望ではありません。障がいを正しく理解することで、ようやく前に進むことができるのです。

小児リハは、障がい受容プロセスを伴走することも大切な仕事

「障がい受容」は、一朝一夕で成し得ることではないので、疑問や不安に対して一つずつ一緒に向き合うことが大切です。小児リハビリの臨床場面でありがちなことなのですが、障がい児の発育を健常児の成育過程に合わせようとしてしまうことがあります。

障がいを抱えた子が、健常な子と同じことをすることができないのは明らかなのにも関わらず、それをさせようとしてしまうのです。これは誤っていますよね。

子どもには一人ひとりに合った成長過程があり、その過程はみな異なるものなのです。

「その子らしさ」「その子自身の在り方」を大切にしつつ「できないこと」でなく「できること」にも目を向けることが必要だと思います。

お子さんのリハビリだけでなく親御さんのケアも大切

口で言うのは簡単ですし、理屈を頭で理解することはできても大切なお子さんの障がい像を正しく認識するのは受け入れ難いことです。なので、障がい受容プロセスの伴走をすることも私の役割だと考えています。

リハビリを受けた子の親御さんからは「育児が楽しくなった」「前向きになれた」とのお声をいただいております。即時的に解決することができなくても一歩ずつ前進していきたら、その子らしい幸せな過ごし方を見つけることができるでしょう。

悩みをクリアして、ありのままをシンプルに受け入れることで次のステップや取り組むべきことが見えてくる。そう信じて親御さんの抱える悩みに一つひとつしっかり向き合うようにしています。

かめきちさんが「これから取り組みたいこと」は?

「多様性」とか「インクルーシブ」といった言葉が行き交う世の中ではありますが、そうした言葉の本質が正しく深く理解されているかといったらまだまだ途上段階だと感じています。

なので、かめきちのサービスを拡充していくことで、真の意味での多様性に富んだインクルージョンな社会を目指していきたいです。

そのために株式会社化を進め、「教育事業」にも力を入れていきます。そこで確実な結果を出せるセラピストを輩出し、「小児リハビリ界の変革」「障がい児を取り巻く社会的包摂の充実化」を図っていきたいです。

また、患者とセラピストを繋ぐマッチングアプリを開発し、リハビリ難民になっている方々が希望通りのサービスを受けられるための準備も進めています。

そのように、実践的かつ具体性に秀でたアプローチができるようになっていけば、難解に思われがちだった「小児リハビリの未来」が拓かれていくと信じています。

そして、人と違うことを「おかしい」といって裁くのではなく、違いを尊重し合える社会を実現できるよう尽力していきたいです。
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